黄体ホルモンの多様な働き

これは最初、故ドクター・ジョン・リーの本 What Your Doctor May Not Tell You About Menopause (John R. Lee, M.D. with Virginia Hopkins, 1996, Warner Books)の要約として書いたものです。ドクター・リーは1989年まで一般開業医として働き、リタイヤした後は、2003年10月に突然の心臓発作で亡くなるまで、執筆、講演、コンサルティングなどに力を注ぎました。ドクター・リーは骨粗鬆症の治療に天然黄体ホルモン・クリームを使うという実験的な治療を始めてからのさまざまな発見、生理学的背景、天然黄体ホルモン・クリームで改善する症状とその使用方法、さらにサプリメントや生薬の併用などを説明する一連の本を出しています。女性も医者も必読の本です。



トピック


正常のホルモン・サイクル

サイクル

卵胞ホルモン

黄体ホルモン

関連事項

1日目、月経開始


1日数mg

妊娠しなければ子宮内膜がはがれ落ち出血する。これで新たなサイクルが始まる。

3日目

視床下部から分泌される生殖腺刺激ホルモンが脳下垂体の卵胞刺激ホルモン分泌を促す。卵胞刺激ホルモンにより卵胞の成熟と子宮内膜の肥厚が始まる。

10日目

急速に高まる

成熟した卵胞が卵胞ホルモンを分泌し、子宮内膜の肥厚が進む。これに刺激されて脳下垂体は黄体形成ホルモンの分泌を促し、排卵に進む。

14日目、排卵

上昇
1日30 mgまで

排卵がなければ黄体は形成されず、黄体ホルモンは分泌されない。

24-28日目

低レベルへ落ちる

低レベルへ落ちる

卵が受精すると黄体が大きくなり黄体ホルモン分泌が活発になる。この時点での黄体ホルモンの低下は流産または月経を誘発する。妊娠が進むと胎盤で1日300から400 mgの黄体ホルモンが分泌されるようになる。

1日目、月経

卵胞および黄体ホルモンの急激な低下が月経を誘発する一方、視床下部を刺激して生殖腺刺激ホルモンの分泌を促す。

更年期以降

エストラジオールは更年期以前の15%、
エストロンは更年期以前の40〜50%

卵胞ホルモンは脂肪、筋肉、皮膚などの細胞で生成される。低レベルの黄体ホルモンは副腎で生成される。



黄体ホルモンの多様な役割と黄体ホルモン欠乏の影響

  • 新しい骨組織の生成を促進し、骨粗鬆症の防止と回復に貢献
    骨は常に再生されています。再生過程は、溶骨細胞が古くなった骨を溶かして吸収し、造骨細胞が新しい骨組織を造ることによって維持されます。骨の空洞化は、溶骨の量が造骨の量より多くなっなると発生します。黄体ホルモンは造骨細胞に働きかけて造骨を促進します。黄体ホルモンを使ったドクター・リーの患者は大きな骨密度の回復を示しています。空洞化が進んでいるほど回復の割合も高いという結果で、もっとも空洞化の進んでいたグループでは3年間で平均23%の骨密度増加を見ています。

    更年期以前の女性でも、月経不順や無排卵月経が起きると黄体ホルモンが不足し、骨の空洞化が進行します。

    天然黄体ホルモン・クリーム、カルシウムその他の栄養剤、適度の運動が骨の空洞化に対する最も効果的で最も安全かつ理にかなった予防と回復の処方箋のです。この処方箋は前立腺癌の治療で男性ホルモン欠乏状態にある男性の骨の空洞化予防にも効果的です。これに比べ、現在、骨粗鬆症の治療で頻繁に使用されているエストロゲン、フォサマックス(Fosamax), Evista, カルシトニン、フッ素などは効果が薄い上に、さまざまな副作用を持っています。フッ素は強力な酵素抑制作用を持ち、その使用によって骨が病変し、もろくなることが知られています。その他の薬は溶骨細胞の働きを抑制してカルシウムが失われるのを阻止するのが主な働きで、造骨を促す作用はありません。古い骨が蓄積すると新しい骨の形成が阻害され、3年から4年で骨はもろくなります。

    メモ: 成長ホルモン療法も造骨の促進に効果のあることが知られてます。成長ホルモンは骨や関節の組織ばかりでなく内蔵や筋肉、脳など体のあらゆる組識の再生・若返りに主要な役割を果たすことが明らかになっています。Ronald Klatz、Carol Kahn 著の Grow Young With HGH : The Amazing Medically Proven Plan to Reverse Aging には成長ホルモンの補充や栄養補給による分泌の促進と若返りの関係を調べた研究や臨床例が多数紹介されています。各種アミノ酸その他の栄養素を始めとしていくつかの要因が成長ホルモン分泌を促進することが知られており、Enrich エンジュビネート のようにその目的で特別に調合された栄養補給製品が入手可能です。

    卵胞ホルモン(エストロゲン)レベルの急激な低下は、溶骨細胞の働きを活発にして、骨の空洞化を促進するので、既にエストロゲン補充を使用している場合は、徐々に使用量を減らすのが懸命です。

  • 副腎皮質ホルモンの前駆体を提供 副腎皮質で分泌されるアルドステロンやコルチゾルなどの副腎皮質ホルモンの主要な前駆体は黄体ホルモンです。これらのホルモンは、ミネラルのバランス、糖分の調整、外傷、炎症、精神的ストレスなどあらゆる種類のストレスに対する反応に関わっています。副腎皮質ホルモンの欠乏は、疲労、免疫機能の低下、低血糖症、アレルギー、関節炎などの元になります。天然黄体ホルモンの使用中にこれらの問題が解消される例がたくさん観察されています。(ただし、ストレス・ホルモンとも呼ばれるコルチゾルはエストロゲンと似た毒性を持っているので、天然黄体ホルモン補充開始当初、ホルモンバランスが回復するまでの間は、ビタミンCを大量(2000mg以上)摂取してストレス・ホルモンが高くなり過ぎないように工夫するのが懸命です。)

  • 黄体ホルモンと脳
    通常、脳細胞には黄体ホルモンが高濃度で含まれています。黄体ホルモンが脳外傷の回復を促進するという実験もあります。脳における黄体ホルモンの役割はまだ良く分かっていませんが、天然黄体ホルモンによって記憶力や思考力、気力などの精神機能を取り戻した例がたくさん報告されています。

    黄体ホルモンは神経繊維を保護し、神経インパルスの高速伝達を可能にするミエリン鞘の生成を促進します。

  • 黄体ホルモンと抑鬱症状 月経前症候群や更年期障害に伴う抑鬱症状、出産後の抑鬱症状などは、天然黄体ホルモンの補充によって緩和されることが知られています。(注: 黄体ホルモンには一種の鎮静作用があり、爽快感を与えます。Gillian Ford は Listening to Your Hormones という本の中で、黄体ホルモン注射では抑鬱症状が改善せず、卵胞ホルモンの補充でようやく回復した体験談を書いています。Elizabeth L. Vliet も Creaming to be Heard という本で卵胞ホルモンを使った月経前症候群の治療方法を説明しています。残念なことに、当時はまだ黄体ホルモン・クリームが一般に知られていなかったため、二人とも注射や錠剤など吸収率の悪い黄体ホルモン補充しか試さなかったようです。 Dr. Ray Peat は、黄体ホルモン注射は溶剤として毒性の強い物質や黄体ホルモンが良く溶けない物質を使っていたため効果が薄かったことを指摘しています。さらに、卵胞ホルモンは脳を刺激して、元気が出る感じを与えるけれども、卵胞ホルモンの脳を刺激する作用は脳細胞の破損につながり、アルサイマーの原因の1つである可能性があるとも警告しています。Newsletters on Aging 参照)

  • 皮膚病を直す 成人女性のにきび、脂漏性皮膚炎 (脂肪とふけが多くなりかゆみを伴なう)、皮脂腺炎症 (赤い膿庖が特徴)、乾癬 (赤いうろこ状の斑点を伴なう)、角皮症 (硬い尖ったいぼ) などが天然黄体ホルモン・クリームを塗ることによって消えることが知られています。

  • 卵胞ホルモン補充の必要をなくす(肥満体や体格の良い人のみ)
    ドクター・リーは最初、卵胞ホルモン(エストロゲン)を使用できない更年期後の女性に黄体ホルモンを適用してみて、ほとんどの場合、卵胞ホルモンは必要ないという結論に達しました。ホルモン補充をしたことのない 65〜80 才の女性の血液中の卵胞ホルモンを調べた結果、三人のうち二人は骨を保護するのに必要なレベルのエストラジオール(5 pg)を維持しているという研究もあります。

    通常、女性は更年期後も更年期前に比べて、エストラジオールを15%、エストロンを40〜50%生成するといわれています。エストロンは副腎皮質で生成されるアンドロスティーンダイオンを前駆体として主に脂肪細胞で生成されますが、小柄な人や痩せている人は自前のエストロゲンでは足りないので通常エストラジオール・パッチなら1日0.03mgを補充する必要があるといわれています。経口エストラジオールの場合パッチの10倍の量を服用することになり、その大半が発ガン性の高いエストロンに変換されてしまうだけでなく、肝臓や腎臓への負担が増すとともに、胆液の粘性が高くなって胆石その他の胆嚢疾患の危険が高くなります。エストロゲン補充用のホルモン剤にはエストラジオールのほかにもエストロン、エストリオール、馬のエストロゲン(プレマリン)、合成エストロゲンなど各種経口ホルモン剤がありますが、低量エストラジオール・パッチが最も安全で効果的なエストロゲン補充方法だと思います。人体で生成されるエストロゲンにはエストラジオールのほかに体組織でも生成されるエストロンとエストリオール(エストロンおよびエストラジオールから変換される)がありますが、これらのホルモンは更年期以降も低エストロゲン期のレベルが維持されます。

    黄体ホルモンは卵胞ホルモン受容体の感受性を高めて、卵胞ホルモンの働きを助けます。さらに、黄体ホルモンは副腎皮質ホルモンの前駆体なので、黄体ホルモンの補充によって副腎皮質ホルモンの生成が促進されます。(ただし、副腎皮質ホルモンの1つのコルチゾルはストレス・ホルモンとも呼ばれ、ストレス下で多くなります。ストレス・ホルモンはエストロゲンと似た毒性を持っているので、天然黄体ホルモン補充開始当初は、ビタミンCを大量(2000mg以上)摂取してストレス・ホルモンが高くなりすぎないように工夫するのが懸命です。)

    黄体ホルモンも卵胞ホルモンも錠剤の形で経口薬として使用すると、肝臓で処理される際に、胆汁を濃くし、胆石などの病気の元になります。卵胞ホルモンの錠剤は腎臓で生成される酵素のレニンとアンジオテンシンの量を増加し、血圧を高くします。これらの副作用を避けるには、パッチ、クリーム、ジェルなど皮膚から吸収されるものを使用するのが懸命です。

  • 妊娠を維持 黄体ホルモンのレベルが急激に低下すると、月経あるいは流産によって受精卵は破棄されます。RU - 486 は黄体ホルモンの受容体との結合を阻止することによって黄体ホルモンの低下と同じ状態を作ります。

    注:事後避妊薬として避妊ピルを75時間以内に大量に服用すると効果があることが知られています。その作用について詳しいことは知られていないようですが、避妊ピルに含まれている疑似卵胞ホルモンや疑似黄体ホルモンは毒性が強いので、卵巣、卵子、子宮内膜などに毒として作用することが考えられます。避妊ピルを事後避妊薬として使用するときは大量の疑似ホルモンを短期間に服用するので、強い副作用を経験する人も多いようです。ただし、疑似黄体ホルモンのみを含むミニピルの方がより効果的で副作用がはるかに少ないようです。

    妊娠初期の流産の予防に天然黄体ホルモン・クリームを使う場合は、排卵を確認してから天然黄体ホルモンの使用を開始し、胎盤が十分な量の黄体ホルモンを生成するようになる3ヶ月目まで1日40〜80mg(小匙1/4〜1/2を2回)の天然黄体ホルモンを続けます。黄体ホルモンのレベルが突然低下すると流産の元になるので、止めるときは徐々に量を減らしていく必要があります。


    卵胞ホルモン過多/黄体ホルモン欠乏症候群の主な原因

    卵胞ホルモン過多は卵胞ホルモンの有害な影響が黄体ホルモンによって補正されないために起きる状態です。黄体ホルモンが欠乏するとさまざまな卵胞ホルモン過多の症状が出ます。黄体ホルモンがホルモン・バランスのカギを握っています。

    更年期以前

    1. 無排卵月経では黄体ホルモンは分泌されません。(35歳頃から頻繁に見られる。年齢とストレスが主な原因。避妊ビルで使用されている合成ホルモンや卵胞ホルモンと似たような特性を持つ農薬「環境ホルモン」による食品や環境の汚染が卵胞の早期機能不全の元になっている可能性もあります。)
    2. 卵胞ホルモンの過剰分泌も黄体ホルモンの低下と平行して発生します。
    3. ホルモン剤、避妊ピル(避妊やホルモン補充に処方されるlevonorgestrelやmedroxyprogesterone acetate (Provera) などのホルモン剤)は疑似黄体ホルモンであるため、卵胞ホルモン過多と似たような症状を引き起こします。また、疑似卵胞ホルモンの含有量が高いピルは卵胞の早期機能不全の元になる可能性があります。注:ミニピルと呼ばれる疑似黄体ホルモンのみのピルもありますが、副作用の中には胎児の奇形や脳血栓などかなり危険なものがあるので、可能な限り擬似ホルモンを含むピルの使用は避けるのが懸命です。低量あるいは中量と呼ばれるピルでも通常体内で生成される天然のホルモンよりはるかに高い量を含み、長期にわたって使用すると、擬似ホルモンであるため分解されずに体内に蓄積し、さまざまな障害の元になります。
    4. 子宮摘出(卵巣をそのまま残した場合でも、血液の流れが変わるため、卵巣が正常に機能しなくなったり萎縮したりして、正常なホルモン分泌が不可能になります。)
    5. 卵管結紮(卵管をふさぐとき血管もふさがれるため、黄体ホルモンの生成を促す脳下垂体からの黄体形成ホルモンが卵巣に届かず、正常なホルモン分泌が不可能になります。)

    更年期以降

    1. 卵巣機能の停止あるいは卵巣摘出の結果、卵胞ホルモンも黄体ホルモンも卵巣から分泌されなくなるのが更年期ですが、卵胞ホルモンは卵巣や副腎皮質で生成されるアンドロスティーンダイオンを前駆体として、脂肪、筋肉、皮膚などの細胞で生成されるため、更年期後も通常のほぼ40%が維持されるのに対し、黄体ホルモンは通常の2%程度に下がります。
    2. 卵胞ホルモン補充療法が卵胞ホルモン過多の最大の原因です。(アメリカでは更年期障害と骨粗鬆症の予防にという理由で、更年期の女性に頻繁に処方され、更年期の女性の30%が使用しているといわれています。)
    3. 肥満(脂肪細胞は卵胞ホルモンを生成する)が卵胞ホルモン過多の原因となることもあります。

    疑似黄体ホルモン(合成プロジェスティン)は黄体ホルモン(プロジェステロン)ではない
    疑似黄体ホルモン(levonorgestrelやmedroxyprogesterone acetate (Provera)、Dydrogesterone (Duphaston)、Norethindrone Acetate、Mesgesterol Acetate などのホルモン剤)は人体で分泌される黄体ホルモン(プロジェステロン)とは異なった分子構造になっています。そのため、疑似黄体ホルモンは人体の中で黄体ホルモンの機能を一部模倣するだけです。疑似黄体ホルモンを使用する避妊ピルや補充用のホルモン剤が、流産、月経困難症、子宮内膜症、更年期前後のさまざまな障害に対して黄体ホルモンとして処方されるのが一般的のようですが、疑似黄体ホルモンは数多くの副作用を持ち、危険な副作用も少なくありません。ホルモンの補充に疑似黄体ホルモンを使用する必要は全くありません。天然黄体ホルモンは誰でも簡単に買うことができます。
    現在アメリカで入手可能な経口の天然黄体ホルモンにPrometriumというブランド名のものがありますが、1カプセル100mgと、通常必要な量の20〜40mgに比べて高くなっていますので、注意が必要です。


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