ネットサーフ日誌:平成9年2月


1997年2月5日 水曜日 − おごれる者は久しからず
  • 「おごれる者は久しからず。ただ夏の夜の夢のごとし。たけき人もついには亡びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。」とういのはお馴染み平家物語の一節。日本には今この一節の教える歴史の必然に思いをはせる人も多いに違いない。

    国際経済の駆け引きの裏表など、私には到底窺い知ることはできないけれど、日本が経済的にも政治的にも落ち込んだまま立ち直れないでいるのを見て、また円の価値が目に見えて低下していくのを見て、近頃これで日本問題は片が付いたと安堵しているアメリカ人が少なくないと思うのは私の僻目だろうか。

    先日も新聞にJapan's once tidal-wave powerful economy now ebbsという見出しでLos Angeles Times のTom Plateという人が書いた論説が載っていた。その論調は、一時は日本が世界経済を牛耳るようになるのかと心配したけど、今は何と落ちぶれたことか、日本人もやっぱり人間だって分かって安心したけど、破産のとばっちりを食らう近所の迷惑も考えて、もう少ししっかりしてもらわないと。。。という感じで書かれている。

    日本から押し寄せる輸入の波を食い止めるには円高にしなければならないと言って、一時は1ドルが100円を切るという円高を実現させた人たち−誰がそのような力を持っているのか皆目見当も付かないけど、消費者の感覚では1ドル150円でもまだ円高という感じがする−今その人たちは、ことが思惑通りに運んだことを祝っているのだろうか。確かに円高で日本の競争力は落ちたように見えるけれども、円高だからといって急に今まで買っていた物を買わずに済ませるわけにはいかないから、円高になった分かえってアメリカの貿易赤字が増えた部分もあったはず。

    それでも、円高で確実に収益が落ち込んだ日本の企業の隙を突いて、東南アジアやメキシコに生産拠点を移したアメリカ資本が、力をつけるための時間稼ぎにはなったのかもしれない。少なくとも、大量解雇の結果、路頭に迷って、やり場のない怒りのはけ口が必要だった労働者たちに、不当に安い円が、ずるがしこい日本人が悪いという言い訳をもっともらしく見せるのには役に立ったのかもしれない。

    今、円安になって誰も騒ぎ立てないのは、アメリカ資本がその目標を達成したからなのだろうか。日本経済が飛ぶ鳥も落とす勢いで、ジャパン・バッシングたけなわだったころ、日本から来た人たちから良く聞いた言葉は、アメリカはどうなったんでしょうかね、もっとしっかりしてもらはなくては困るのに、日本は戦後の復興時に助けてもらったのだから、今その恩返しをしなくては、日本は自分たちだけ儲ければいいと思っているわけではない、というようなことだった。

    そういったコメントに対して、よく、日本人ってどうしてこうも、物の見方が甘いのだろうかと思いながら、アメリカ人はいつまでも負けているとは思ってないし、そんなに困っているわけでもないといった話をしたことを覚えている。

    ジャパン・バッシングというのは、私に言わせれば、アメリカ資本が大衆の目を自分たちからそらすために、大衆を扇動して打った時間稼ぎの猿芝居にすぎない。アメリカの大衆がその嘘と醜さに気が付いたのは、ブッシュ大統領が訪日した折り、同伴したデトロイトの御三家に、ヤクザの言いがかりかと思うようなことを言わせた挙げ句、自からは日本の総理大臣の膝にヘドを吐くという失態を演じたあたりからだったように思う。

    今や、かつてはジャパン・バッシングに忙しかったアメリカ政府の高官までが "...it would be a great mistake to gloat or crow. Anything that would allow them (Japanese) to externalize their problems and blame them on anyoune else would not be in their interest." (日本に対して勝ち誇った態度を取るといった過ちを犯してはいけません。彼らの問題が外からの力のせいだという言い逃れを許すような口実を与えては、彼らのためになりません。)などと、したり顔で言う時代。彼ら自身がその手の言い逃れをついこの間まで使っていたわけだから、時代も変われば変わるもの。

    もちろん、こんな話をしたのは日本の疲弊が円高やジャパン・バッシングの結果だと思っているからではない。日本の将来が決して明るいものではないという兆候は10年以上前から見えていた。テレビ番組や雑誌・新聞の質の低下、日本の文化を支配するようになった刹那主義といったものが、私には何よりも強く日本の落ち行く先を暗示しているように見えた。

    何はともあれ、地震にも負けず、重油汚染にも、冬の嵐にも、政治家や官僚の腐敗にも負けずにがんばっている日本の皆さん、May the force be with you.


  • ホームページへ|日誌インデックスへ|お便りは eueda@hiwaay.net上田悦子